証券取引等監視委員会は2018年2月20日、ラッキーバンク・インベストメントに対して行政処分の勧告がなされました。
ラッキーバンク・インベストメント株式会社に対する検査結果に基づく勧告について
今回の処分内容の要点を最初に確認しておきましょう。
1.貸付先の審査が適切に行われていないにも関わらず、厳密な審査を行っているように見える。
2.担保物件の評価方法が、ガイドラインで定めた適性なものではない。
それでは、一体何が起こったのか、詳しく見ていきましょう。
事実関係
貸付先のほとんどは、田中 翔平 代表取締役(以下「田中社長」という。)の親族が経営する不動産事業を営むX株式会社(以下「X社」という。)となっており、田中社長を含む取締役全員がX社における不動産事業の会議に参加し各事業の進捗状況等の報告を受けているほか、平成28年4月から同29年2月までの間においては、内部管理責任者である取締役をX社の不動産事業部に兼務させるなど、当社とX社は密接な関係の中業務を行っている(平成29年8月末現在、償還期限が到来していないファンドは、185本、出資金約62億円)。
ラッキーバンクで扱っていたほとんどの案件の貸付先が親族が経営する不動産会社となっていたというのが読み取れます。
さらに、田中社長と取締役全員がX社の不動産事業の会議に参加していたということです。事実上ラッキーバンクの案件は、X社を通して事業が行われていると考えてよいでしょう。
この時点では、そういう関係であったというだけの話で、この事実が問題であったかどうかまでは分かりません。
勧告では以下の2点が問題として挙げられていました。
(1)貸付先の審査につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
(2)担保物件の評価につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
それぞれについて見ていきましょう。
(1)貸付先の審査につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
勧告内容を見てましょう。
「当社は、借入申込者の信用力を厳密に評価します。提出書類(決算書・事業計画書・収支計画書など)に基づき融資の可否を判断します。」旨を表示しているが、
売却契約の締結に至っていない物件を売上に計上するなどして、純利益や純資産が水増しされているにもかかわらず、これを看過していたほか、
ものすごくざっくり言うと、「厳密に評価しますとは言っているけど、厳密ではないよね。」という話です。
どの部分が厳密ではないかというと、お金を借りようとする人の審査において、財務状況をチェックする必要があるのですが、財務状況における純利益と純資産が水増しされていることを見過ごしたということのようです。
本来、この部分が正当に評価出来ていない場合、
X社が手掛ける複数の不動産事業について事業期間が延長となる事態が発生し、この間、X社は売却資金を得られず、平成29年3月以降に償還期日を迎えるファンドに係る借入金の返済が困難な状況となっていることを認識したにもかかわらず、その後もX社を貸付対象先とするファンドの募集を継続している。
本来早く売れるはずの物件が売れなかった。
そのため、2017年3月以降に償還期日を迎えるファンドの返済が困難になっていることが分かってはいたにも関わらず、その後もX社を対象としたファンドの募集を継続していた
というのが概要となっています。
(2)担保物件の評価につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
当社は、X社が保有する不動産に担保を設定して、X社への貸付けを行っているファンド318本のうち252本について、「不動産価格調査報告書」を当社ウェブサイト上の募集要領に掲載しているが、当該報告書は、正式な不動産鑑定評価を行った上で作成されたものではなく、
ちょっと解釈がややこしいですが、担保の根拠となる不動産価格の調査に関して、国土交通省のガイドラインのものではないけど、それっぽく見せてるよね。という話のようです。
対外的に公表できない不動産価格をウェブサイト上に掲載し、ファンド出資持分の募集を行っている。
不動産価格については、国土交通省のガイドラインに則ったものでなければ、対外的には公表できないものとなっているようです。
こちらはけにごろうさんのブログで田中社長へのインタビュー内容が紹介されていました。
ここで「正式な不動産鑑定評価」と言っているのは、国土交通省のガイドラインに沿った「不動産鑑定評価書」のこと。これを作成するには50万程の費用がかかる。
当社は、プロジェクトで不動産調査を行う際、不動産鑑定評価書ではなく、「不動産価格調査報告書」を用いることがある。
不動産価格調査報告書は、公示価格や一般的な取引価格などを基に行う、簡易査定・机上評価である。
数万円~十数万円の費用で作成でき、早く作成できるというメリットがある。決して評価方法がいい加減だとか間違っているということではない。
しかし、これを掲載すること自体が、国土交通省ガイドラインに沿った不動産鑑定評価書である。と投資家に対して誤解を与える可能性がある、という見解だった。
引用:けにごろうのはじめてのソーシャルレンディング日記
「評価方法はいい加減ではない」ということの様です。ちなみに不動産鑑定評価書と価格調査報告書とはどの程度違いがあるのもなのでしょうか?
不動産鑑定評価書
不動産鑑定士が、不動産鑑定評価基準に則って鑑定評価を行うもの
価格調査報告書
不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査
この価格調査報告書として認められる場合として、
・内部の使用にとどまる場合
・公表される場合、利用者の判断に大きな影響を与えない
などなどの条件があるようですが、今回の事例ではどちらの条件にも当てはまっていないように思います。
これらを比較すると、いい加減という訳ではなさそうだが、投資家の判断を仰ぐ資料としては弱いということが言えそうです。
尚、行政処分直前の2/19に募集された第438号案件では、2つのプロジェクトの内、2つのプロジェクトについてのみ、不動産鑑定評価書が添付されていましたが、1つめのプロジェクトについては、評価書が添付されていないようでした。
今回の行政処分の内容はどの程度重要なものなのか?
今回の事例について、総合的に再評価してみました。
改めて今回の問題点を整理してみましょう。
・審査をしていない訳ではなかったが、客観的にみれば不十分な点があった。
・ユーザーに表示する不動産価格の表示が国土交通省のガイドラインに則っていなかった。
これらの点から、消費者を裏切る行為とまではいかないまでも、今一度管理体制や公表の体制を見直して再出発が必要となりそうです。
ラッキーバンク社の事業継続自体は問題ないと推測されますが、改善するまでは新規案件への投資は控えた方がいいのではないでしょうか?